この春から、「ひらがなのツリーほいくえん」の新園長として着任した仁和美沙紀先生。東京児童協会が運営する22の保育園、こども園の園長先生のなかで現在最年少、フレッシュな園長です。
小さいころから世話好きで、だれもが頼れる〝地域のお姉さん〟になりたかったという仁和先生に、園長就任の戸惑いや、今後の抱負、目指す保育園像などを語っていただきました。
目次
子ども目線で、泣き、笑い、考え、解決していく
保育士になってから、ずっと変わらず大切にしていることは、〝保育を楽しむ〟ということです。先生だからといって、子どもたちに教えるという立場に立つのではなく、自分も楽しむ!!
そして、子どもと同じ目線になって、笑っている子がいたら一緒に笑い、泣いている子がいたら一緒に泣き、悩んだり、考えたりしている子がいたら、「なぜ?」「どうしたらいい?」と一緒に考え、解決していく。
子どもたちの多彩な感情を味わいながら、共に学んでいけることが保育士としての喜びですね。
規律のなかの自由ではなく、自由のなかの規律
当園に着任する前に、二つの姉妹園で保育に携わってきたのですが、二園とも、とにかくやりたいことをやらせてくれる保育園でした。
そのときに教わったのが、〝思い立ったら、即行動〟ということ。「こんな行事をやりたい」「ここを変えていきたい」と思ったら、すぐに行動に移す。「後でやるは、永遠にやらない」だと思って、「そのときに、ちゃんとやる」を心がけています。
そして、もう一つ感銘を受けたのが、〝規律のなかの自由じゃなくて、自由のなかの規律〟という言葉。
はじめに規律ありきだと、その中でどれだけ自由にやろうと思っても、結局は規律という枠に縛られて、できることが限られてしまう。そうではなく、まずは自由にやってみて、その中のポイントポイントで、守るべきルールを設定しようという考え方。これらの教えは、今でもしっかり心に刻まれていますね。
不安が解消された瞬間
園長の辞令を受けて、まずはビックリし、直後にものすごく不安になりました。「保護者の方がどう思うだろうか?」と。
園長というと、経験と威厳があって、というのが一般的なイメージだと思うんです。私を見た保護者の方が、「この人が園長で大丈夫なの?」と不安に思われると、園の信頼にも関わりますし、そこが一番心配でした。
しかし、コロナ禍でできなかった保護者懇談会が今年度は再開されたので、全クラスに園長から話す時間を設けて、保護者の皆さんとじっくりお話をさせていただいたところ、「園長と話す機会を作ってくれてよかった」という温かいお言葉をいただき、一気に不安が解消されました。同時に、きちんとコミュニケーションを取ることが、信頼を得る第一歩なんだと実感しました。
ですから、たとえば「今日はみんなでお散歩をしました」という単なる行動報告にとどまらず、「○○ちゃんはこんなことがあって……」というように、園児一人ひとりのエピソードや成長の様子をきちんと保護者の皆さんにお伝えできるように、職員全員で連携をとって、子どもたちを見守っていきたいと思っています。
自分の引き出しの数を増やしていくということ
園長になって保育現場に入る機会は少なくなったのですが、現場で保育に当たっている先生たちから何か相談を受けても、「園長だから現場のことは分からない」ではいけないので、現場感覚が鈍らないように心がけています。
それと同時に、マネジメントをする立場としては、保育の多様化、そして社会問題化している職場のメンタルヘルスにも対応できるように、本を読んだり、資格取得に向けて勉強したりしています。
入職3年目でクラスリーダー、8年目で主任、10年目で園長になり、それぞれのポジションで求められるものは変わってきたと思うんですが、どのポジションでも自分の引き出しを増やしていくことは大事だと思っています。
引き出しが増えれば増えるほど、子どもたちに対しても、このアプローチでダメなら、こっちでというふうに、さまざまな角度からアプローチができますしね。
それと、オンオフの気持ちの切り替えも大事。「今日帰ったら、好きなドラマを一話見よう」「お休みの日には美味しいものを食べに行く」と決めるだけで、仕事を効率よくやろうという気になりますし、オフの楽しみがいい気分転換になって、オンの時間も充実させてくれる。自分なりの楽しみを持つことも、自分の引き出しを増やすことだと思っています。
〝生きる力〟が花咲くように、種まきをする
子どもたちが大きくなるにしたがって、生きるための力が必要になってくるでしょう。
しかし、教える、教わるという大上段に構えたものではなく、実体験のなかに学びの機会を作ってあげることで、子どもたちの今後に、学んだことが活かされてくるとうれしいですね。
たとえば先日、こんなことがありました。子どもたちから「園長先生、水族館に行きたい」と言われたんですが、そこで、そうだね、行こう!と言うのではなく、あえて子どもたちに「どうして行きたいの?」「行って何をしたいの?」と問いかけをする。
すると後日、子どもたちが「園長先生、これ」と言って、紙を見せてくれたんです。
図鑑などでいろいろ調べて、なぜ水族館に行きたいのか、行って何がしたいのか書いてあったんです。つまり、自分たちの「行きたい」をかなえるために、動機や目的を紙にまとめて、私にプレゼンしてくれたわけです。
もちろんいまはプレゼンの意味も分からないと思いますが、このような体験の一つひとつが、きっとこの先、この子たちを助ける力になってくれる。そんな思いを込めて〝生きるための力の種〟を、できるだけたくさん蒔いてあげたいなと思います。
目指すは、「ただいま」と言って帰って来られる保育園
ここ、「ひらがなのツリーほいくえん」を卒園児が気軽に帰って来られる場所、卒園生だけではなく、その保護者の方々、別の園に異動になった職員、この園に関わっただれもが、「ただいま」と言って帰って来られる場所にしたいというのが、私の夢です。
まずはそのために、〝オープンな保育園〟にしたいと思っています。ですから、事務所のドアも閉じないで、いつでも皆が入って来て雑談ができるようにしています。
自分がそうしてもらって保育士として成長できたように、若い先生たちにも、のびのびとやりたいことにチャレンジして、経験を積んでいってもらいたいと思っています。
元々が話し好きなので、つい自分から発言してしまいそうになるのですが、今は若い先生たちにどんどん意見を出してもらいたいとの思いから、「聞く」という立場に徹しています。
私が幼児期を過ごした保育園は、温かく安心できる、大好きな第二のおうちでした。大人になったいま、今度は私がそんな保育園づくりをしていきたいと思っています。