都内に22施設の保育園を運営する東京児童協会。2017年から新たな学習の取組みとして独自に開発した「ワンルーフゼミ」を導入。これは、幼少期だからこそ身につけておきたい認知能力や非認知能力を養う教育ツール。
そこで、なぜ導入されたのか、また子どもたちへの影響なども併せて、ワンルーフゼミに大きく関わった大塚 まなみ先生や、積極的にゼミを実施している「橋場そらとみどりの保育園大きなおうち」の染谷 安紀子園長先生に話を伺いました。
「ワンルーフゼミ」の誕生
ワンルーフゼミは、東京児童協会が掲げる4つの指針「生きる力をはぐくむ」「思いやりを育む」「夢を育む」「学びに向かう力を育む」に基づいていると同時に、理事長の「考える力を養いたい」という強い思いで2017年にスタートしました。
「ワンルーフゼミ」の作成には、同園に2017年に入社した大塚まなみ先生が大きく携わっています。直前まで他の園で園長として勤務していた経験もあり、入社当初は東京児童協会が運営する各保育園の現場に入って保育を担当。
そのときに各園で実施されていたのは、いわゆる「お受験用」のテキストでした。ですが内容が難しいうえ、項目も多く、子どもたちにとっても、教える側の保育士にとっても、非常にやりづらいという現実を目の当たりにします。
それならいっそ法人オリジナルのものを新たに作っては?と提案。そこから大塚先生のテキスト作りが始まり、やがて2018年に冊子が完成しました。
実際に現在使用しているワンルーフゼミは、下記7つの項目に沿って作成。そこから細分化してより具体的な内容に落とし込んでいます。こうして、まだまだ成長過程である幼少期の子どもたちが、多角的に物事を考えたり、感じたりできるようにと、活用されるようになりました。
【7つの項目】
- 言語
- 数量
- 知識
- 推理
- 記憶
- 知覚
- 構成
ワンルーフゼミは、1週間に1回約30分実施。1年かけて7つの項目を学び、子どもたちそれぞれが考えを巡らせ、日常生活にも活かされています。
「ワンルーフゼミ」ではどんなことをするの?
ワンルーフゼミは、通常の「ワーク」のように、机に座ってただテキストを問くスタイルではありません。まずリラックスできるように準備運動をして、さらに教具を並べて理解してもらったうえで進めるなど、子どもたちが理解しやすく、また興味を持ってもらえる工夫もしっかり組み込まれています。
例えば、実際の時計盤を見ながら、秒針を見て1秒の長さを体感したり、長針や短針を理解したり、時間の読み方を習得し、さらにそこからそれぞれの好きな時間やその理由を発表してもらったり。
また、果物や野菜の小さな種が、どう成長して、どんな食材として活かされているのかなど、食育に通じる学びや、昆虫の定義・一生など、動物に関する学びまで、さまざまなジャンルを扱うのも大きな特徴です。
いずれも普段の生活につなげられるように、そして活かせる術を自然と身につけるような内容になっています。
「ワンルーフゼミ」は子どもたちにどんな影響があるの?
学ぶだけではなく、生活に自然と浸透して活かすことが大切だと園長先生は言います。
ワンルーフゼミを実施するなかで、実際に子どもの成長を感じることも。
今まで、友だちの前で発言をしたことがなかった恥ずかしがり屋の子どもが、ある日、自ら手を上げて発表する場面もありました。初めての出来事に感動したのは、先生のみならず子どもたちも同様。回りにいた子どもたち全員から自然と拍手喝采を受けるという、うれしい状況もありました。
また、1歳から入所して5歳まで塗り絵に興味を示さなかった子どもが、ワンルーフゼミで、初めて塗り絵に挑戦してくれたそう。それがとっても上手で、担任の先生も驚いたそうです。それ以降、あれだけ無関心だった塗り絵を毎日するように! そんな保育士も予想できないうれしい状況にも出会えます。
自分で苦手だと思いこんでいたり、興味がなかったことも、ワンルーフゼミがきっかけで、大人もびっくりするくらい子どもは何かを感じて、吸収して、学んでくれる……そんなツールになっています。
マニュアル化することで、保育士にとって教えやすい状況かつ、保育技術が磨かれるきっかけにもなります。また、自由保育だと保育士の得意不得意がどうしても反映され、偏ってしまいがちですが、ワンルーフゼミなら苦手な分野も的確に子どもたちに教えることができるメリットもあると、大塚先生。
ワンルーフゼミは、日常生活と自然とリンクしたり、知的好奇心や自ら考える力を養うきっかけになるオリジナルのメソッド。子どもたちの可能性をできる限り広げてあげたい……そんな思いからスタートした子どもの成長を促す画期的なツールです。