都内に24の保育園を運営している社会福祉法人 東京児童協会では、保育の時間を活用した特別活動として、白梅学園大学の教授であり武蔵野美術大学でも講師をされている杉山貴洋先生の「杉アート」を定期的に開催しています。
造形教育を専門分野とする「杉アート」は、大人の常識にあてはめるのではなく、子どもたち自身が描く世界観を尊重することを大切にしています。
今回は職員の研修として、普段子どもたちが受ける「杉アート」の授業を、保育士たちが体験。「杉アート」が、子どもたちの成長にどのようにつながっているのか、どのような気持ちで造形活動をおこなっているかということを実際に感じる機会となりました。
5歳児の気持ちになって杉アートを楽しむ
今回、先生たちが体験するのは、「アートでほわほわとうろう大作戦!」というワークショップ。会場となった「たいとうこども園」には、40名を超える各園の保育士の先生たちが集まり、会場にこられない先生たちはオンラインで受講をしました。
杉山先生は、「今日は、子ども心を取り戻して5歳児の気持ちでワークショップを受けてみてください。僕もそのつもりで進めていきます。アートには失敗や反省は必要ありません。今日は、反省するのではなく、自分の良いところを見つめ直すような時間にしてもらえるとうれしいです」と挨拶。
ワークショップの説明も、園で子どもたちに対して行っているのと同じようにスタートしました。
「杉アート」で子どもたちが盛り上がる、「杉せんせいクイズ」に、先生たちも挑戦! 言葉にリズムをつけながら出題されるクイズに、先生たちも童心に戻り、大きな声で回答していました。
クイズのあとは、とうろうの色づけをしています。まずは、絵の具をローラーで混ぜるところからスタート。好きな絵の具の色を混ぜて、くるくるとローラを動かす先生たち。普段は、子どもたちの様子を見ている先生たちが、自ら実践して、”5歳児の気持ち”で色付けやローラーを動かします。
どの先生たちも、すごく楽しそうにワークショップに挑んでいる様子が印象的です。
色付けした紙を杉山先生に見せる先生たち。隣の人たちと見せ合ったり、褒め合ったり、会場の雰囲気は和気あいあい!
完成したとうろう。同じ材料を使い、同じように説明を受けていても、完成した作品には個性が溢れます。
何をしてはダメ。これは必ず! と言ったルールは一切ありません。感じるままに手を動かした結果完成したとうろうを見比べて、先生たちも大賑わいでした。
実際に灯りをつけてみます。同じ作品を作った子どもたちは、とうろうに灯りがともった瞬間に大きな歓声をあげたそう。自分の作った作品が、このように並ぶのを見ると、大人も子どももうれしい気持ちになりますね。
アートは社会における遊び
白梅学園大学子ども学部発達臨床学科教授:杉山貴洋先生
普段は子どもたちが体験している「杉アート」を先生方に体験してもらう最大の目的は、”心に余裕を持ってもらう”です。
余裕を持つというのは遊び心を持つということ。遊び心を持てるほど心に余裕があるといろんな発見があります。僕は、余裕があるからこそ個性って生まれると思うんです。
幼児教育を家づくりに例えると、どこにあたると思いますか? 大人の価値観で行くと、太い柱を立てようとか、屋根をかっこよくしようとか、まわりにデコレーションをしようみたいなところに意識が行くのですが、幼児教育はその子の基礎を作る場所なんです。
だから、すぐに結果を求めない。
アートって、それを作ってどうするの? というものではあるけど、唯一遊べるものというか……。アートって、社会における遊びなんですよね。
僕たちはロボットを育てているわけではないので、フィーリングで生きたり寄り道したりすることもOKだし、泥団子を作ったり、キャンプで自然に触れたりすることで育まれる大切なものが必ずあるんです。
そういった経験をどれだけ与えてあげられるか。それがすごく大切だと思います。
普段、保育に携わっている先生たちが、5歳の気持ちになって「杉アート」を体験することで、先生としてという目線では見えなくなっていたものに気づける。今日のワークショップが先生方にとってそんな時間になったならうれしいです。
杉山先生のワークショップの意図・目的を東京児童協会の職員も学び共有し、子ども達とのより良い関わり方を日々研鑽しています。